スンバ島絣布(イカット)について

インドネシア・スンバ島イカット伝統的でありながらバラエティーに富む様々な染織品がつくられ続けている東南アジアの中でも、インドネシアでは絣布(イカット)、更紗(バティック)、絞り染め(プランギ)、浮織り(ソンケット)など、数ある島や地域ごとに魅力的な織物が生み出されております。

こうした織物の宝庫であるインドネシアにおいても、一枚の織物の中に、まるで絵画のように様々な文様(モチーフ)が躍動するスンバ島絣布(イカット)は、世界的にも稀有な存在です。

スンバ島絣布(イカット)の中に繰り広げられる文様(モチーフ)の多くには、様々な意味合いが込められております。

古くからのマラプ(精霊・祖霊)信仰に基づいたもの、スンバ島に伝わる伝統的な風習に基づいたもの、人々にとって身近な品や動植物はもちろん、インドや中国からの影響により生み出されたものや、オランダ統治時代の影響による文様(モチーフ)も数多くあります。
また、織り手独自の芸術性などによって生み出された、独創的・ユニークな文様(モチーフ)も見られます。

ここではスンバ島絣布(イカット)の命とも言える文様(モチーフ)を、代表的なものを例にご紹介致します。

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スンバ島絣布(イカット)の文様(モチーフ)①~島に伝わる風習

◆首架文(スカルツリー/skull tree)

スンバ島イカットモチーフ写真20世紀初頭まで、スンバ島では部落間での戦いの際に首狩りを行う風習が残っておりました。
その狩られた敵の頭部を飾っていたのがandungと呼ばれる首架です。

今でも、ごく稀ではありますが、首架のために使用されていた木(枝)の残る村が残っております。

この首架文は、戦いでの勝利を祈願するために古くからあった文様(モチーフ)の一つで、かつては支配階級の人々の腰巻に織り込まれてきました。

いわれとしては少々恐ろしくもありますが、絣布(イカット)に織り込まれた表情からは反対に可愛らしさも感じられるスンバ島絣布(イカット)を代表する特有かつ人気の高い文様(モチーフ)の一つです。

◆パソラ(pasola)

スンバ島イカットモチーフ写真男性達が様々に飾られた馬に乗って槍を投げあう、年に一度の勇壮な騎馬儀式(祭り)で、主にスンバ島西部で行われます。

槍の刃は、現在では怪我をしないように細工されてはおりますが、やはり勝負事ということもあり、時おり死傷者が出てしまう事もあるそうです。

尚、パソラで人を殺してしまった場合は、合法であり罰せられることはないそうです。

スンバ島絣布(イカット)の文様(モチーフ)②~海外からの伝播

スンバ島絣布(イカット)のみならず、インドネシア各地でつくられる染織品にはインドや中国から伝播した文様のみならず、オランダ統治時代を物語る西洋的な文様(モチーフ)も存在し、インドネシアを取り巻いていたかつての状況を窺い知ることができます。

◆獅子(ライオン)

スンバ島イカットモチーフ写真1602年設立の東インド会社によるオランダ統治時代の名残りの一つが、獅子の文様(モチーフ)で、かつてのオランダ王国の紋章の模倣とも銀貨の模倣とも伝えられます。
王冠を被った二匹の獅子が、装飾台を挟んで向かい合ったスタイルで表わされることが多く、以前は王侯にのみ許された禁制文様でした。
その他にも、オランダの影響による文様と伝えられている物には、双頭の鷲、三色旗、天使、オランダの元女王ウィルヘルミナ、クリスマスモチーフなどがあります。

◆龍(ドラゴン)

スンバ島イカットモチーフ写真スンバ島絣布(イカット)の中には、様々な形の龍(ドラゴン)が登場しますが、そのスタイルには大きく分けて、足の描かれていないもの、2本足のもの、4本足のものがあります。

蛇のように足の描かれていないものはインドから伝来したものと伝えられます。
また、4本足の描かれた龍は中国から輸入された磁器からの模倣と言われており、比較的近年になってから用いられ始めたそうです。

◆パトラ(patola)

スンバ島イカットモチーフ写真パトラとは、インドのグジャラート州パタンにて織られる絹の経緯絣(ダブルイカット)で、古くはインドの他の地域でもつくられていましたが、現在はパタンの工房が唯一知られております。
17世紀頃からオランダ東インド会社の輸出品として東南アジアにもたらされ、パトラの華麗な文様(モチーフ)は近世のインドネシアの染織に大きな影響を与えました。
そのパトラの中に織り込まれる織柄の一つの花様の文様は模倣されて、インドネシアの絣布(イカット)の中に広く用いれられるようになりました。
こうしたパトラの模倣文様は、日本ではパトラ文/パトラ文様/パトラ写しと呼称されます(パトラという名称は、あくまでもインドの上記箇所等でつくられた絹の経緯絣の呼称であり、文様を模倣した織物はパトラとは呼びません)。
古くはパトラのみならず、パトラの模倣であるパトラ文様も王侯貴族にのみ許された禁制文様とされ、他の東南アジアの染織品の中にもインドのパトラの影響が広く見られます。

スンバ島絣布(イカット)の文様(モチーフ)③~海の生物

◆海老

スンバ島イカットモチーフ写真海老は脱皮を繰り返しながら大きく成長していくことから、強い生命力の象徴とされ、生命の復活(再生)・不老長寿を表す文様(モチーフ)として、古来からスンバ島で好まれて織り続けられてきました。

また、蛸は足が再生し、蟹も足が再生し脱皮を繰り返すことから、同様の意味合いで織り込まれることがあります。

◆亀

スンバ島イカットモチーフ写真王侯階級に許された文様(モチーフ)の一つで、長寿や来世への生まれ変わりに関連します。
鰐と組み合わせることで、ラジャ(首長)のシンボルとされます。
また、甲羅の美しさから、ラジャに求められるセンスの良さを表わすとも言われております。

◆魚

スンバ島イカットモチーフ写真王家の繁栄を願う文様(モチーフ)とされ、来世の幸せを願う文様(モチーフ)でもあります。

また、この魚の文様には、村人は団結して行動すべしという先人からの教えも込められているそうです。

スンバ島絣布(イカット)の文様(モチーフ)④~陸の動物

◆馬

スンバ島イカットモチーフ写真馬は最も神聖な動物として崇められ、かつては王侯・貴族のみに許された禁制文様で、その後は戦の際の勇気や富の象徴、そして死者が天国へ行くためのお供として表されてきました。
スンバ島は馬の名産地として知られており、ヨーロッパへと輸出されておりました。

◆鶏

スンバ島イカットモチーフ写真鶏は天上界の象徴としてスンバ島絣布(イカット)を代表する文様(モチーフ)の一つです。
王家の繁栄を願う文様(モチーフ)でもあり、中でも雄鶏は力強さを表します。
また、スンバ島では人は亡くなった後には一族の神として敬われますが、鶏は亡くなった人の魂の水先案内人とも考えられています。

◆蛇

スンバ島イカットモチーフ写真天上界の象徴である鶏に対して、蛇は下界の象徴とされます。
超能力があると信じられ、天上界と他界との仲介者として畏怖の象徴でもありました。
脱皮をする姿から生命の復活(再生)の象徴とも伝えられております。
また、女性の守り神として蛇の這い跡が織り込まれることもあります。

◆鹿

スンバ島イカットモチーフ写真貴族階級が宗教儀式として鹿狩りをしていたため、文様(モチーフ)として織り込まれることがあり、勇敢さの象徴と考えられております。

その他、富の象徴としての牛、貴族の狩りの際のお供である犬、マングローブの住人である猿、インドから伝播した孔雀など、様々な動物がスンバ島絣布(イカット)の中には登場します。

スンバ島絣布(イカット)の文様(モチーフ)⑤~人物像

スンバ島イカットモチーフ写真スンバ島の絣布(イカット)には、様々な人物像が織り込まれておりますが、中でも多く知られているのは、アニミズムの一環である精霊崇拝(祖先崇拝)によるものです。

また、かつて行なわれていた首狩りの際に勝利を祈念する踊り、または勝利を祝う踊りを織り込んだものや、嫁さらい婚、赤ん坊、呪術師(シャーマン)を織り込んだ絣布(イカット)も多く、実にバラエティー豊かです。

スンバ島絣布(イカット)の文様(モチーフ)⑥~装飾品

スンバ島イカットモチーフ写真スンバ島周辺で特異な装飾品にはマムリと呼ばれるものがありますが、これは女性の子宮を模っており、女性を表すシンボルでもあります。
このマムリには儀式を経て祖先(マラプ)の魂が宿り、超自然的な力をともなうとも考えられております。
大きさや素材は様々ですが、スンバ島では結婚時に男性から女性へマムリを型取ったペンダントをプレゼントする慣わしがあるそうです。

その他、ランバと呼ばれる馬の冠や、マムリと同様の意味合いを持つマランガが登場することもあります。

スンバ島絣布(イカット)の文様(モチーフ)⑦~その他

◆生命の樹(宇宙木)

スンバ島イカットモチーフ写真世界各地の織物にも見られる「生命の樹(tree of life)」のモチーフ。
天上界と下界を繋ぐ文様でもあり、それぞれの象徴である鶏と蛇が樹の周囲にあしらわれることが多く見られます。
また、白檀の産地であったスンバ島では支配階級の象徴として白檀を指し示す場合もあります。

◆S字

スンバ島イカットモチーフ写真何気ないシンプルに見えるS字の文様(モチーフ)ですが、呪術的な意味を持つ特別な文様と考えられております。

その他にも、神を表す一環の文様として星、月、鋸歯、空想動物のアナマハン、ラジャの葬儀、スンバ島の織り人の豊かなイマジネーションによる楽しい文様も織り込まれ、それぞれが布面に生き生きと躍動しています。

ヒンギー(男性用腰巻/hinggi)の構成について

スンバ島の村にてヒンギーとは、スンバ島で男性が着用する大きめの織物で、腰布兼肩掛けとして使用されるスンバ島絣布(イカット)の呼称です。
腰機でこれ程の大きな絣布(イカット)を一枚布として織り上げることは困難なため、同柄の2枚のパーツが真ん中で継ぎ合わせられていることが多い織物です。

このヒンギーには伝統的な構成があり、各場所によって意味するものがあります。
下の語句一覧は、代表的なライン状に文様を配したタイプのヒンギーについて表したものです。
もちろん各村によって、「マス目模様」などが伝統的な構成となっている等の相違もありますので、下の構成はあくまで代表的な一例です。

また、そうした村ごとの伝統的な構成を踏まえた織物の他、優れたイマジネーションを持った織り手によって、スンバの風習に基づくモチーフを一枚の布面にストーリー性豊かに織り込んだスンバ島イカットもつくられております。

1.ラ・パドゥア(王候・神)~中心部分の最も神聖な部分で、パトラ文様などが描かれることが多い。
2.タラバ・ディダ(貴族)~支配者階級を象徴するモチーフが描かれる。
3.ハイ(平民)~首架文や海老などのモチーフが描かれることが多い。
4.タラバ・ワワ(奴隷)~フリンジ上部の部分で、鉤文などの幾何学文様が描かれることが多い。

~カバキルについて~

エンドボーダーまた、ヒンギーにはフリンジの上部にカバキルと呼ばれる特有のエンドボーダーが織り込まれることが多く、スンバ島絣布(イカット)の味わいの一つとも言えます。
通常はヒンギー本体に使用されている色彩に合わせるような色合いで施されることが多いのですが、中には装飾性の豊かな個性的な物や文様があしらわれた物もあり、ヒンギーの風合いをより高めてくれる一因ともなっております。

スンバ島絣布(イカット)の染料について

スンバ島の村にてごく一部の例外を除いては、スンバ島では現在でも天然染料による絣布(イカット)づくりがほとんどで、村内や近隣などで育った植物によって染め上げられております。
当店で取り扱っているスンバ島絣布(イカット)も全て天然染料が使用されております。
季節によって染めの回数や濃度も異なり、村によっては藍の配合はその村の女性の門外不出の秘伝であり、藍立てをする場所へは男性や観光客は立ち入り禁止となっている所もあります。

また、染めの前の括り作業は、モチーフを生き生きと克明に表すための重要なポイントとなりますが、現在では、一度に絣布(イカット)4~10枚分程の糸を括ってつくられる物も増え(そのため、昨今では同柄のものが何枚も見られるようになってしまいました)、そのためにモチーフのディテールがぼやけがちとなっているスンバ島絣布(イカット)も多く見受けられるようになりました。

そんな中、伝統的な染織文化を絶やさないためにと、島内の村々を巡り歩いて細かに調査をし、少量ずつの糸を括り、一枚一枚を大事につくり上げるという伝統をふまえた染織活動を行なっている熱い思いを持った若者達も出始めております。

当店ではそうした活動に感銘を受け、伝統を踏襲しつつ創造性あふれる人々によってつくられた良質のイカットを多く取り扱っております。
そして、こうしてつくり出されたスンバ島絣布(イカット)を通じて、スンバ島の人々の絣布(イカット)へのこだわりや浪漫、織物がつくり出されている遥か南の島スンバ島にも興味を持って頂けましたら幸いです。

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