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織物の持つ意味・用途

皆さんは“織物の使い方”というと、どのようなことが思い浮かぶでしょうか?

タペストリー(壁掛け)などインテリアのアクセント、ベッドやテーブルなどのカバーリングなどの実用的な生地としての存在の他にも、日本で暮らす私達にとっては着物、風呂敷、袱紗・・・と、長く伝わる日本の文化として味わいを加えるエッセンスもあるかと思います。

こちらでは、織物内に織り込まれた文様(モチーフ)の持つ意味合いとはちょっと目線を変えて、東南アジアでの織物自体の意味合い・用途についてご紹介致します。

注:文章や画像の無断転用・転載(引用)はお止め下さい。
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織物の持つ意味①~ステイタス・シンボルとして

東インド会社によって交易品としてインドネシアにもたらされたインド・グジャラートのパトラ。
このパトラは、当時、大変珍重され、王族貴族に競うように求められ、所持していることがステイタス・シンボルとされました。

その後、このパトラに織り込まれた花のような幾何学模様などの文様(モチーフ)がインドネシア各島に広まり、且つては王侯のみが使用できる禁制文様とされてきた地域も多くあります。
東南アジアの他国でもパトラに対する憧憬の念から、パトラ様の文様があしらわれた織物がつくられるなどし、その影響は現代の東南アジアの染織に今も尚、色濃く残されています。

このパトラ文様のように織物に織り込まれた文様、または織物に使用される色彩で、その持ち主の地位や権力が表される事があります。

インドネシア・スンバ島イカットまた、結納や葬儀の際には、現在でも織物の枚数や質が重量視され、ステイタス・シンボルとなる地域があります。
例えば、スンバ島では数ヶ月~数年をかけて葬儀が行われますが、その安置の期間、数多くのイカットでご遺体や棺などを覆い、周囲にも装飾としてイカットが飾られる事もあります。
そして、数十枚から時には百枚を超える多くのイカットが一緒に埋葬されますが、村の権力者であればある程、持ち寄られたイカットの枚数・質ともに上昇します。

織物の持つ意味②~魔除けとして

インドネシア・バリ島の聖なる布様々な思いを込めてつくられてきた織物には、その地域に代々受け継がれてきた魔除けの文様が織り込まれることもあります。
中には、その織物自体が魔除けの力を秘めた物として崇められてきた布もあります。

例えば、インドネシアのバリ島トゥガナンでつくられる「聖なる織物」とも呼ばれるグリンシン。
このグリンシンには神々が宿っていると信じられ、赤は創造神ブラフマーを表します。
また、この茜染めによる赤の彩りは、人間の血で染められたものだと村外の人々に長い間信じられてきたという逸話を持っています。
尚、グリンシンは、正式には吉日を選んで染織作業が行われるために完成まで数年が費やされます。

その他、インドネシアの織物ではスマトラ島の霊船布(タンパン・タティビン・パレパイ)や、バリ島のチュプックにも、魔除けの意味合いが込められています。

インドネシア・バリ島の魔除け布そして、上記「織物の持つ意味①~ステイタス・シンボルとして」でご紹介したように、スンバ島では死者を多くのイカットで覆う風習がありますが、この風習にも悪意ある力から死者を守ると言う魔除けの意味合いが含まれています。

そして、何気ないごくごくシンプルな風合いの織物にも、そうした魔除けの意味合いが秘められているものがあります。
バリ島の寺院や舞踊の場などでよく見かける白と黒の格子模様のポレン(poleng)などもその一つです。
この白と黒は善と悪を表すとされ、バリ島ではとても重要な位置付けの織物です。

織物の用途①~衣類として

インドネシア・フローレス島イカットをまとった人々時代の流れと共に、東南アジアの染織が盛んな地域でも、現在では洋服を着た人々がほとんどとなりましたが、日本の着物と同様に今でも冠婚葬祭などを中心に伝統織物が身に着けられています。
また、一部ではありますが、現在でも日常的に伝統衣装を身に着けて人々が暮らしている地域もあります。

一枚の織物を洋服のように体に合わせて立体的に裁断・仕立てすることなく、ほぼ織り上げた形のままで使用する衣類には、腰衣・肩掛け・腰衣兼肩掛け・胸当て・褌・(マントのように羽織る)ブランケットなどがありますが、現在見かける機会が比較的多いのは腰衣(腰巻)かと思います。

こうした織物に使用される色彩(染料)や織り文様などによって、その人の社会的地位や氏族などが判別できたといわれております。
昨今は、こうした禁制文様や禁色の制限はいにしえに比べると緩やかになってきたとのことですが、それでも今もこうした名残りを見かける場面もあります。

インドネシア・スンバ島にて腰巻をまとった人こちらはインドネシアのスンバ島のとある祝いの席での場面。

ヒンギーコンブ(赤の腰衣/腰巻)と呼ばれるイカットをまとっておりますが、この茜染めを主体とするヒンギーコンブはかつては王侯・貴族などの支配階級の男性が身に着け、対して藍染めのヒンギーカウル(青の腰衣/腰巻)は平民階級の男性が身に着けておりました。

二枚の同柄のヒンギーを腰巻と肩掛けとして体にまとう場合と、腰に巻いた後の残りの片端を肩へと掛けて一枚の布でまとう場合があります。

また、素材は現代的に変わっても、ミャンマー(ビルマ)のロンジーのように国民の多くが日常着として腰衣を身に着けている場合や、ラオスのシンのように学校や企業の制服として腰衣(巻きスカート)が採用されている場合もあります。

織物の用途②~家庭用品(寝具)などとして

タイ・タイルー族の敷布織物の中には、寝具・蚊帳・手拭きなどといった家庭用品としてつくられ、使用されてきた伝統織物もあります。
そうした織物の中には、来客用やお寺への寄進用として、手を掛けて織り上げられた華やかな物もあり、魅力に溢れています。

こちらはタイルー族の敷布で、旅行の際や寺院に宿泊する際に使用される簡易寝具の一種ですが、婚姻時の贈り物(結納品)としてつくられた一枚で、通常の敷布に比べてとても華やかな装飾が施されております。

タイ・タイルー族の手巾また、こちらはタイルー族の手巾の一種パーチェツ。
いわゆる手拭いですが、こうした華やかな手巾は冠婚葬祭時の肩掛けとして使用される他、やはり婚姻時の贈り物(結納品)や寄進の品として用いられます。
もちろん、実際に手拭いとして使用される白を基調としたシンプルな物もあります。

その他にも、華やかな織物があしらわれた枕や布団なども見られます。

織物の用途③~寄進として

タイ・タイルー族のトゥン信仰に篤い人々の多い東南アジアの国々では、寺院への寄進用として様々な織物がつくられてきました。

上記のように、寝具や手巾なども寺院への寄進の品としての側面を持っておりますが、他にもタイの寺院などを訪れると境内で風に翻っている細長い織物を見かけることも多いかと思います。
こうしたトゥン(トン)と呼ばれる幡も寄進用としてつくられてきました。

【タイ/寺院にて】

上記の他にも、祭儀の際に壁掛けとして使用されるための織物、また日本の袱紗と似たように贈答品を包むためだけにつくられる織物などもあります。

それぞれの織物の持つこうした本来の意味合いに思いを馳せるのも、また楽しいものですね。

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インドネシアのフローレス島イカット